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長岡鉄男のオーディオ・コーナー 特別企画 
        音が変わる!ヘッドシェルの工作  



         この記事は週間FMの1975年当時のものです。

●カートリッジの音を変えるもの
 シェルによってカートリッジの音が変わるといわれる。これは事実だが、といってシェルだけで、音色がきまるなどと考えると大まちがいだ。オーディオはひじょうに多くのファクターの集積の上に音色がきまってくるのであって、どれかひとつのファクターがすべてを支配するなどということは決してない。ではカートリッジの音色を作るファクターはいくつぐらいあるかというと、これが細かく調べていくとたいへんな数になる。いくらミクロの世界だからといって、ミクロに追求しすぎると、本誌の領域を逸脱してしまうので、まず、MM型に限定した上で、適当に抑えながら説明してみよう。

●スタイラス・チップ
 針先チップ、いわゆるダイヤである。これをさらに細かく分けて調べる。
<材質>
 原則としてダイヤだが、一部にコランダム(合成鋼玉。サファイアの一種)もある。ダイヤといっても種類は多く、ソリッド・ダイヤ(ヌード・ダイヤ)と接合ダイヤがあるが、ソリッド・ダイヤにも、結晶軸の方向にそって角柱、または円柱状にカットしたものを使うのが最高で、結晶軸無視したものは劣る。
接合型は、球状のダイヤを金属棒に接着してあるのだが、この接着剤の制度で音が変わるし、金属棒の材質でも変わる。

<形状>
 全体としては円柱と角柱のどちらだが、音溝との接触面の形状は種類が多い。丸針、だ円針、超圧円針、ラインコンタクト針とあって、さらに丸針だけでも〇・七、〇・六五、〇・六、〇・五、〇・三ミルとある。ラインコンタクト針も、シバタ針、イチカワ針、EX針、プラコニク針、クォドラヘドラル針、等々、数え上げればきりがない。統計すると二〇種類ぐらいになる。同じものを別の名前で呼んでいる場合もあるが、それを差引いても一〇数種はまちがいない。この針先の形状は音質に大きな影響
を与える。

<重量>
 チップの太さ、長さはいろいろで、とにかく、細く、短いほど軽くなるのは当たり前。軽いほど高域の特性は良くなるが、図太さ、力強さでは後退する面もある。

<研磨精度>
 形だけはシバタ針だといばってみても、仕上げ精度の差が大きくものをいう。性格にカットして、滑かに仕上げなければ決していい音はしなしのだ。

<取付精度>
 チップそのものはどんなに高精度に仕上げたところで、これをカンチレバーに取付ける時に左右、前後の角度のズレ、垂直軸回りの回転などがあれば、音質はたちまち劣化する。特に丸針以外の針では、回転回転がもろに効く、また同じカンチレバーに同じチップを取付けるに際しても、第1図a、b、cのように埋め込み量のちがいがあり、これも音質に影響する。



<接着剤と接着方法>
 チップをカンチレバーに取付けるには接着剤が必要。この接着剤は硬くて軽いほどよい。接着剤がやわらかいと立ち上がりは鈍くなる。第2図aとbとでは、当然bの方が実効質量が大きくなり、高域特性が悪くなる。また、ふつうはカンチレバーに穴をあけてチップをさしこむのだが、カンチレバーに穴をあけずに、短く切ったチップを、カンチレバー先端の平らにした面に接着する方法もある。
(第3図)この方が実効質量が小さくなるが、接着剤の影響がもろに出てくるので、硬い接着剤を使わない限り甘い音になる。海外製品には甘い音になっている実例がある。

 

●カンチレバー
<材質>
 ジエラルミン、チタン、ベリリウム、カーボン、それぞれに音色はちがう。ジェラルミンにしても数種類あるし、焼入れしたものと、焼きなまししたものとでは音がちがう。ベリリウムは鋼の混入量でちがうし、カーボンは接着剤なしでは成型できないので、その接着剤の性質と配合比で音は変わる。
さらにカーボンとアルミの二層構造ともなればまた音が変わる。

<形状>
 
カンチレバーは、バイプと、丸棒とがあり、特殊なものとしては、薄板を丸めてパイプ状にし、接着剤でつないだものもある。しかもストレート・パイプと、テーパード・パイプ(根元が太く、先へ行くほど細くなる)のちがいがあるし、全体の太さのちがい、長さのちがいで音が変わる。先端の処理(第4図)でもちがう。根元の方は第5図のように二重構造になっているものもあり、これも、ジュラルミン同士でつないだものと、カーボン、チタン、ベリリウムとジュラルミンとの結合もある。これでまた音が変わる。

 

<マグネット>

 材質としてはロー・コストなアルニコ系と、高級なサマリウム・コバルト系が主なものだが、形状は、丸棒、角棒、リング状といろいろでサイズ、重量も異なり、取付位置も、振動の中心にあるもの、前にあるもの、後ろにあるものといろいろ、更にVM型のような特殊な方式もあり、それぞれに音はちがう。

<支持方式>
 
ダンパーだけで支えるもの。ダンパーの他にワイヤーで引っぱって支えるもの。ダンパーの他にピボットで押しつける形で支えるものとある。これに応じて、振動の中心も、カンチレバーの重心に来たり、最後端に来たり、いろいろである。

<ダンパー>
 
ダンパーはゴムや合成樹脂が使われるが、取付位置と材質、大小で音がかなり変わる。物理的性質としては、弾性と粘性のバランスがたいせつで、弾性が強すぎると、立上がりがよく、弾むように音が出てくるが、抑えが効かなくて、うるさくなる。粘性が強すぎると、立上がりが悪く、イヤな音は出ないが、甘く、鈍い音になる。ダンパーは温度による特性変化がひじょうに大きく、十八度と二〇度でガラリと音が変わるようなものもある。

<サスペンション・ワイヤー>
 
カンチレバーをワイヤーでひっぱっているタイプは多いが、ワイヤーの取付位置、張力で音が変わるし、ワイヤーの材質、形状でも音は変わる。ナイロンテグス、ピアノ線、単線、より線、それぞれに音が変わる。

●スリーブ・クランプ
 カンチレバーの入っているサヤをスリーブという。たいていシンチュウで作られているが、この形状、ボディとのかみ合わせで音が変わるまた、プラスチック・モールドの指かけの部分をクランプとかノブとかいうが、これが意外に音質に延慶を与える。クランプの材質、形状、スリーブとの結合ボディとの接触状況が重要である。原則としては硬質の高い(たとえばメラニン、アクリル)プラスティックのムク(空洞がない)のクランプで、ボディに密着、一体化するものがよいが、そう注文通りにはいかない。

●磁気回路
<コイル・インピーダンス>
 コイルをたくさん巻いて、直流抵抗も、インダクタンスもふえているものと、逆にコイルの巻数が少ないものとでは明かに音がちがう。その典型的な実例として、テクニクス205CUのHとLがある。この二機種は、針だけ共通で使っても、ボディのちがいによる音の差が歴然と出てくる。

<ヨーク、ポールピース>
 ヨークというのはコイルのはめこんである部分、ポールピースというのはスリーブを囲んでいる部分と思えばよい。これらの形状と材質も音質に大きな影響を与える。そこで、トロイダル(角のないヨーク)とか、ラミネート(積層)ヨーク、フェライト・ヨークとかがでてくるし、ポールピースも同様ヴァラエティに富む。当然少しずつ音が、特に高域が変わってくる。

●ボディ、ベース
 ボディは塩ビもあるが、ABS樹脂が多く、他に、カーボン・ファイバー入りとか、アクリルとか、メラニンとか、アルミ・ダイキャストとか、かなり硬い素材も投入されている。内部に空洞がないほど、素材が硬いほど、音は立上がりがよくなり、鮮明になるが、一方、高域でクセがつきやすくもなる。ボディとシェルとの接触面積の大小も音質にかなり影響する。

●シェル
 どうせ作るのだから省略する。

●アーム
 アームは、長さ、トラッキング・エラー、オーヴァーハングといった問題もあるが、実際の使用状況からすると、音質を左右するのは、実効質量、感度、材質、強度、防振対策、サポート方式、サポート部分のガタ、サポート部の重量、ウェイトのガタ、ヘツド・コネクターのしめ具合、ベースのサイズ、重量、等々である。細かく説明しているとキリがないので省略する。

●プレーヤー・キャビネット
 キャビネット、あるいはベース、あるいはベースは、アームの延長と考えるべきであり、この材質、強度、重量、サイズ、防振対策等々は、音質を大きく左右する。
さらにはインシュレーターや、プレーヤー全体としての重量バランスや重心位置なども音質に影響を与える。細かい点については省略。

●ターンテーブル
 ターンテーブルの材質、強度、重量、重量バランス、防振対策は音質に影響を与えるが、特に決定的なのはゴム・シートだ。シートの厚さ、デザイン、重量、強度、粘性、弾性、レコードとターンテーブルへの密着性、等々で、カートリッジの音質は大幅に変わる。極論すれば、オーディオはゴム・シートできまるといってもよいくらいだ。

●シェルの改造

         

 シェルをいじることで、どの程度、音が変わるか、ぼく自身は現在一〇〇個以上のカートリッジと、約二〇機種、一〇〇個以上のシェルを持っているので、シェルによる音の変化、カートリッジとシェルとの相性等、身を以て体験しているが、これをもっとわかりやすい形で読者に紹介できないかと考えて、今回の企画となった。狙いとしては、
@シェルは同一のものを使用、これに細工する。
Aカートリッジは同一機種を使用、アームその他の条件も同一にしてテストする。
B改良ではなく、改造である。悪いから手を加えて直すというのではなく、バランスのとれた質の良いカートリッジとシェルの組合わせに、敢えて細工をして、音をいじるのが狙い。
 というわけで、オーディオ・テクニカAT−11dを六個使用した。このカートリッジはシェル込みで八〇〇〇円と安い。シェルは単売一八〇〇円のD−7の色ちがいのものがついている。このカートリッジはステレオの新製品テストでも紹介されており、ぼくの推奨品でもある。シェル単体では決していいシェルではないのだが、AT−11dとしてシェルこみでの音はたいへんバランスよくまとまっており、総合的にCPが高い。
 このシェルに細工をしようというのだが、これを選んだのは、スタイルが独特で、加工がしやすいというのも大きな理由だ。以下、具体的に、加工と、音質の変化をメモしていく。




@オリジナル
 そのまま細工せずに聞く。レンジはそう広くないが、バランスがよく、切れこみ、解像力、迫力、ツヤ、すべてほどほどで安心して聞ける。多少ザワザワする感じはあるが、むしろ奥行、拡がりの面でプラスになっているようだし、重低音は不足だが、低音はわりと力強くガーンとくる面を持っている。

Aコネクター部のゴム・リングをはずす。音が硬くしまって、あいまいさがなくなり、定位もはっきりしてきた。一方、ソースによっては、奥行、拡がりといった雰囲気的要素で一歩後退。

Bシェル上面のプラスティック・プレートを取り除く。これはカートリッジをはずしてから、下から、楊子かマッチ棒で突くと簡単にとれる。
 ザワザワした感じがなくなり、音がスッキリしてきた。少し線が細くなった。

Cオリジナルのシェルにゴムをはさむ。ゴムはテニス・ボールを切抜いたものを使った。
 ややソフトになるが、中高域は意外としなやかで、ツヤがあり、面白い。低域は量感はあるがメロメロになる。ソース次第ではイケる。

Dプラスティック・プレートをはずし、エポキシ系(二液性)接着剤またプレートをのせ上面の凹みにタップリ流しこんで、一昼夜かためる。
 ひじょうにハードで、ダイナミックで、クリアな音に変身、中高域がしっかりしてきたせいか、バランス上やや低域不足気味。

FEに鉛板をはさんで使う。低域がよくしまって、しかも量感あり、スケールがちがう。全体にレンジが拡がった感じ、たいへんよい。

G接着剤の代わりに、鉛の粉の入ったコーキング剤をぬりこめる。
 ザワザワした感じがなくなり、落着いた、スッキリした音。ただ、E、Fの場合ほど、ハードで、しまった感じにはならない。仕上がりがきたないので、あまり推奨できない。

Hシェルを根元近くで切り落として、薄いプラスティックの板を接着する。
 どんなひどい音になるかと思ったら、意外と美しい。ツヤのある音で面白い。ただ、低域はよれよれでだらしがない。

I同様に、薄いアルミ板を接着する。
 明らかに音色が変わる。シンバル、ギターなど、ひどく生々しいし、時計のベルやチャイムなども眼前に迫ってくる。一方、ヴォーカルはよごれるし、低音はにごって、しまりがないし、量感も不足。

●結論
 このような実験は、高級カートリッジほど差がハッキリと出るので、シェル込み八〇〇〇円、針圧二gのロー・コスト・カートリッジでは、あまり差が出ないのではないかと、心配だったが、予想外に差が出た。AT−11dに関しては、オリジナルが最も無難だが、やる気があればEFをすすめる。八〇〇〇円のカートリッジが九〇〇〇円から一〇〇〇〇円、ぐらいになったような感じだ。


 こうして改めて文字を打ち込んでいると、30年も前の事ながら思い出してくるものです。テクニカのAT−11dというカートリッジはロー・コスト製品しか買えない私にとって思い出深いものです。結局は買わなかったのですが。ターンテーブルのゴムシートだけは変更しました。長岡さんの服装を見ると、アイビーだったのかと思います。

  


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